Q:今回≪スパルタクス≫でクラッススを踊っていただきますが、この役の見どころについてお話いただけますか?
A:クラッススという人物の大きな見どころは、正気と狂気の境目、揺れ動く内面でしょうか。クラッススがローマ軍を率いて敵地を征服し、栄光に包まれます。その後、舞踏会の場面となり、ローマの客人たちが招かれ、酒宴に興じています。ここで早くもクラッススの狂気の片鱗が垣間見え始めます。次の第2幕でも酒宴の場面があり、ここにはローマ帝国の上流社会を取り巻く人々、貴族たちが登場します。その後、クラッススの別荘をスパルタクス率いる軍勢が襲撃するのですが、その時、クラッススに恐怖心が芽生えます。その後、恐怖心を克服する様子が描かれますが、このあたりはそれぞれダンサーが自分なりに演じています。私も演じるたびに役の解釈が少しずつ変わってきています。第3幕でクラッススが再び軍団を召集するあたりからこのバレエの大団円になります。第2幕でスパルタクスはクラッススとの決闘で勝利するのですが、クラッススを殺すことも、罰を科すこともなく、解放してしまいます。それがクラッススにとっては最大の侮辱であり、屈服させられたという思いに囚われます。こうしてクラッススはこの屈辱を晴らすためにスパルタクス攻撃へと向かうのです。ここが最大のクライマックスになります。

Q:≪スパルタクス≫の中でどのシーンが一番好きですか?
A:どのシーンというよりはこの作品全体が好きですね。というのも、このバレエには一貫したストーリーのラインがあるからです。あるシーンが他のシーンを補完したり、伏線になっていたりします。
Q:最初にクラッススを稽古し始めたのはいつでしょうか?
A:4年前です。
Q:その時と今とでは違っているところはありますか?
A:部分的に変わってきていますね。全く別の人物像になっている時もあります。それほど狡猾でも、攻撃的でもなく、思索的で、思慮深い人物になったりします。ただ、いずれにしろ、クラッススには正気と狂気との境界があって、そうした狂気があったからこそ強大な権力を握ることができたのですが、クラッススはその境界を踏み越えないようにしているところがあります。
Q:その境界とはどういうところですか?
A:もっとも分かりやすいのは第1幕第3場の《クラッススの酒宴》ですね。
Q:どういう境界なのでしょうか、権力者と享楽的な部分とか、...
A:第1幕第3場の《クラッススの酒宴》の最後の方でエギーナと踊っている場面がありますが、そこでクラッススは何回かターンをして、何かをめちゃくちゃに破壊するような仕草をしますが、そこで狂気の世界に入り込みそうになるのですね。その後、ふと我に返ったように腕を組みます。そこが境界に当たります。
Q:クラッススは強烈な個性のある役ですが、ご自分には合っていると思われますか?
A:ええ、子供の頃から踊りたいと思っていました。ボリショイ劇場で≪スパルタクス≫を見てから、絶対、クラッスス役を踊りたいと強く憧れ、それが目標になりました。バレエ団に入ってからいろいろな役を踊りましたけど、全てはいつかクラッススを踊るための準備だと意識しながら、稽古に励んできました。それと自分がこの役を稽古している時、グリゴローヴィチから直接、指導を受けたことは幸運でした。とてもためになりました。
Q:グリゴローヴィチのバレエ全般についてお話しいただけますか?
A:彼の作品には常に意味があり、壮大なドラマトゥルギーに貫かれています。どの作品でも強烈な個性を持った人物たちが登場します。それが実に巧妙に計算し尽くされていて音楽や、照明効果にもぴったりと対応し、それらが相俟って観客の心理にも強く訴えかけるものになっています。
Q:ドラマチック・バレエはお好きですか?
A:はい、好きです。役の人物像を作り上げていくのが好きなんです。役を作り上げていくという作業がおもしろいんです。ただ舞台に出て行って一連の動きを見せるのではなく、役を作りあげて、それを自分の身体を動かして観客に語りかけるというのが魅力なのです。
Q:一つの役を踊り続けていくと、役に対する理解も深まり、少しずつ変化してきていると思うのですが、....
A:そうですね。役を深く理解するようになるし、何か、それまでには感じなかったニュアンスを感じ取れるようになり、それをちょっとした所作やジェスチャーで表現したりして、その都度、修正して役に磨きをかけています。年齢を経るに従って成長するということもあるのでしょう。
Q:ところで、ボリショイ劇場が改修を経てオープンしたことで何か特別な思いはありますか?
A:ええ、わくわくして興奮しているところがありますね。なにしろ、開館を長く待ち望んできましたから。改修工事に入る直前に本館の舞台でソロパートを踊ったことがあります。その後、(臨時の施設として建てられた)新館の舞台でレパートリーに入れた作品もありますから、それを本館の舞台でも踊ってみたいです。本館の舞台には独特の雰囲気があるので、多分、踊りも違った感じになるでしょうね。
Q:6年は長かったですか?
A:いいえ。6年の間に様々な作品のいろいろな役に取り組んできましたから、それほど長くは感じませんでした。その間にとてもいい役に恵まれましたから。今度は、それを本館の舞台で踊ってみたいです。
Q:『ライモンダ』でも踊っていらっしゃいますか?
A:ええ、アブデラフマンを踊っています。それから、ロットバルトも。いずれも悪役ばかりですね。まあ、アブデラフマンはそれほど悪役というわけではありませんけど(笑)。ライモンダに一方的に恋心を寄せているだけです。
Q:そういう情熱にあふれた人なのですね。
A:その当時の東洋の騎士道の掟によると、騎士は教養があって、何ヶ国語もの外国語を操り、詩作をしたり、絵を描いたりするのが当然でした。教養のレベルで言えば、アブデラフマンの方がジャン・ド・ブリエンよりも上だったんですよ(笑)。
Q:ところでバレエは自分からやりたいと思って始められたのですか?
A:いいえ、嫌々始めました。男の子だし、教室でバレエのレッスンをするよりは走り回ったり、サッカーをしたりする方が楽しかったですね(笑)。
Q:バレエダンサーになろうと思ったのはいつ頃からですか?
A:興味を持ち始めた時、ですか? 16歳頃からですね。その頃から意識的にバレエダンサーになりたいと思うようになり、いろいろなバレエ作品のビデオを見ました。
Q:そのように変化したのはどういうきっかけがあったのでしょうか?
A:芸術に触れる機会が多くなり、いわゆる、大人になり始めたからでしょうか。それと、それまではキエフで勉強していましたが、その頃にモスクワに移って、こちらで勉強するようになり、ボリショイ劇場でバレエを観る機会も増え、自分の才能をもっと伸ばしてみたいと考えるようになりました。

ボリショイ・バレエ 日本公演2012
会場:東京文化会館(全公演)
《スパルタクス》
2012年1月31日(火) 18:30
2012年2月1日(水) 18:30
2012年2月2日(木) 18:30
《ライモンダ》
2012年2月7日(火) 18:30
2012年2月8日(水) 18:30
《白鳥の湖》
2012年2月4日(土) 14:00
2012年2月9日(木) 13:00
2012年2月9日(木) 18:30
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<東京以外の公演>
★:白鳥の湖 ◆:スパルタクス ◎:ライモンダ
★ 2012年1月27日(金)三重県文化会館大ホール
◎ 2012年1月28日(土) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホール
★ 2012年1月29日(日) アクトシティ浜松大ホール
◆ 2012年2月5日(日) 愛知県芸術劇場大ホール
◎ 2012年2月11日(土) 兵庫県立芸術文化センター大ホール
★ 2012年2月12日(日) 兵庫県立芸術文化センター大ホール


